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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2163号 判決 1963年2月20日

判   決

神奈川県高座郡座間町栗原五、三四一番地

原告

吉田晴信

右訴訟代理人弁護士

河野曄二

東京都世田谷区喜多見町四、三九二番地

被告

鄭奇燮

右訴訟代理人弁護士

佐々木

右当事者間の損害賠償請求訴訟事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

1、被告は、原告に対し金五〇万円及びこれに対する昭和三七年四月一五日から完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は、被告の負担とする。

3、この判決は、第一項に限り仮りに執行することができる。

事 実(省略)

理由

一、昭和三四年七月六日午後四時三〇分ころ、神奈川県相模原市淵野辺一、八九一番地先道路上において、原告乗用の原動機付自転車と、訴外本木静男運転の被告車とが衝突したことは当事者間に争いがなく、(証拠―省略)によると右の衝突事故によつて、原告が右大腿骨遠位端剥離骨折、右膝窩部挫創(屈筋腱一部離断)及び右足底部挫創の傷害を受けたことが認められ、この認容に反する証拠はない。

二、被告が被告車を所有して、砂利の運搬並びに販売業を営んでいること及び訴外本木が被告の被用者があつたことは当事者間に争いがなく。(証拠―省略)によると、同訴外人は、被告方において自動車の助手をしていた者であるが、本件事故発生の当日は、被告車の運転手である訴外松尾某並びに被告がともに不在ではあつたが、仕事を休むと食事代を給与から控除されることを考え、自ら被告車を運転し砂利を採取してこれを運搬中に本件事故を惹き起したものであること認められ、この認容に反する証拠はない。してみると、被告は自動車損害賠償保障法第三条の規定にいわゆる「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するから、同法条所定の免責事由について何らの主張も立証もない本件においては、本件事故の発生によつて原告が受けた後記の損害を賠償する責を免れることはできない。

三、(証拠―省略) を総合すると、本件事故発生当時訴外相模原渉外労務管理事務所に勤務し、一ケ月平均金三一、八〇〇円余の給与を支給されていたが前示受傷によつてその勤務を休んだため病気休暇満了の事由によつて昭和三四年一〇月四日限り同事務所を解雇され爾後昭和三六年八月二九日までの間は、通院又は自宅においても受傷部位の治療又は療養をすることを余儀なくされ、したがつて右期間中は稼働して収入を得ることができなかつたこと、昭和三六年八月三〇日ようやく訴外日本理研ゴム株式会社神奈川工場に就職したが、前示傷害のためその勤務を継続することができず、同年一二月三〇日同工場を退職し、翌三一日から昭和三七年三月八日までの間は稼働して収入を得ることができなかつたこと、右神奈川工場における原告の収入は、日給八五〇円であつて、一ケ月のうち仮りに三〇日出勤して金一、〇〇九円の出勤手当が加算されてもその月収は、合計金二六、五〇九円であつたこと、昭和三七年三月九日から訴外有限会社日東鉄工所に勤務するようになり、一ケ月平均金一八、七五〇円の給与を支給されていること、また、原告は、大正四年一一月二一日生れで、昭和三七年三月当時四六才であり、特段の事情がない限り少くとも六五才までは前示渉外労務管理事務所で勤務できたこと、原告は、小学校高等科一年半で中退後、東京市立実科工業学校において約一年半旋盤、仕上げ及び製図等の実科を学び、同校を中退してから今日までの間主として機械製作の仕事に従事してきたものであるが、前示受傷の部位、なかんづく右膝関筋の傷が、現在なお完治せず、その膝を屈げて体重を支えることは著しく困難か又は不可能であるところから疾走することや長途の歩行をすること及び重量物を持つて立ち上ることなどは困難又は不可能であり、したがつて、原告が従事することができる作業は座業等に制限されること、しかも、原告の右受傷部位を通常肉体的労働に従事することができる程度に回復し得る見込は、ほとんど期待することができないことが認められ、以上の認定に反する証拠はない。してみると、原告は、本件事故の発生によつて、

1、前示渉外労務管理事務所を解雇された日の翌日である昭和三四年一〇月五日から昭和三六年八月二九日までの間に、一ケ月少くとも金三一、八〇〇円の割合による合計金七二五、二四五円(円以下は四捨五入。以下同じ)、

2、前示日本理研ゴム株式会社神奈川工場に就職した昭和三六年八月三〇日から同年一二月三〇日までの間の減収(同年八月は、金三五二円、九月ないし一一月は、一ケ月について金五、二九一円、一二月は、金四、二六五円。)合計金二〇、四九〇円

3、昭和三六年一二月三一日から翌三七年三月八日までの間に前示――と同様の割合による合計金七二、八三二円。

4、昭和三七年三月九日以降少くとも一八年間は、一ケ年につき金一五六、六〇〇円の減収を余儀なくされるので、その総額金二、八一八、八〇〇円からホフマン式計算法によつて民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除した金一、四八二、五七九円、

合計金二、三〇二、一四六円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を受けたものといわなければならない。

四、そこで、被告に対し右損害のうち金五〇万円の賠償と、これに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三七年四月一五日以降完済に至るまで民事法定利率五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 羽 石   大

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